金属の詰め物が重宝された背景と問題点
歯科治療では金属を使う時代が長く続いてきました。
歯を動かすために必要な強度や弾性(変形しても元に戻る力)、失われた部分を補うもの(つめるもの、かぶせるもの)に求められる硬さや耐久性に優れていたからです。
しかし、お口の中で金属は腐食を起こします。
腐食によって溶け出した金属イオンは、体にとっては刺激物です。
遅延型アレルギー反応の過程
腐食によって溶け出した金属イオンによるアレルギー反応は、詳しく言えばⅣ型(遅延型)と呼ばれ、以下のような過程でアレルギー反応がでます。
1.イオン化した金属が体内のタンパク質と結合する
2.リンパ球が反応して分化(特異なものに変身)して増殖する
3.遅延型エフェクターT細胞ができ、これが皮膚に遊走(移動)し、抗原を認識(みつける)してサイトカイン(伝えるための物質)をつくる。
4.サイトカインの働きで炎症(皮膚炎)がおきる
この過程に時間がかかるため、腐食によって溶け出した金属イオンによるアレルギー反応は遅延型と呼ばれます。
アレルギーが起こりやすい人、起こりにくい人の
同様な反応にツベルクリン反応(結核菌に感染したことがあるか調べる)があります。判定に2日ぐらいかかります。
しかしながらアレルギーは全ての人に起きるわけではありません。
お口の中に金属がたくさんあっても問題ない方もいれば、卑金属(イオンが溶け出しやすい)も避けていてもアレルギーという方もいます。
アレルギーが起きやすい金属
高校の化学でやったイオン化傾向の語呂合わせを覚えていらっしゃいますか?
K Ca Na Mg Al Fe Ni Sn Pb (H2) Cu Hg Ag Pt Au
貸そうかな まああてにすんなひどすぎる借金
※右に行くほど溶け出しにくい性質を持ちます。
自分がアレルギーを起こしやすいか否か、見つける方法はありませんが、金属の刺激が誘因になるので、可能な限り避ける方が得策なのは確かです。
よくアレルギーがでるのは、ニッケル(Ni) 、コバルト(Co)、クロム(Cr)、水銀(Hg)、パラジウム(Pd)です。
歯科治療材料に使われている金属
水銀は昔の歯科治療で使われたアマルガムに入っています。今は使われませんが、ある程度の年齢の方のお口の中には結構入っています。
パラジウムはいわゆる銀歯に入っています。アレルギーが多いから認められていない国も多いのですが。
残念ながら、矯正で使う材料の中に、Ni,Co,Crは入っています。
しかしNiが入っていない材料(ニッケルフリーといいます)はあるので、アレルギーが判明している場合にはそちらを使ったり、症例によってはメタルを使わないマウスピース矯正(インビザライン 、シュアスマイル)なども併用しています。
ステンレススティールもNiは入っているのですが、腐食を避ける構造ですし、それすら避けると何もできなくなってしまうのでアレルギーがない限りは使っています。
歯科治療における金属アレルギーへの対処
金属アレルギーが疑われる方にはあらかじめ皮膚科でパッチテストをしてもらっています。
一般歯科治療(つめる、かぶせる)でできることは、できるだけ金属を避けておくことです。
これから詰め物をするとき、古い金属材料が入っているところが虫歯になったとき新たに入れるものを金属にしないというのは、ご自身を守るための良い選択です。
積極的に金属を外して陶材などにする、という方法もあります。
もちろん、歯ぎしりで陶材を割ってしまう方もいるのですが、ナイトガードを併用したり、比較的アレルギーが出ない「金」を用いた合金にする(純金は柔らかいのでそのままでは使えません)という方法もあります。
そもそも詰め物が発生しないように、予防に努める!
悪い歯並びは治す!(でこぼこの歯並びはケアが大変です)のが最良の策ですね。