世界的ベストセラーとなった「ライフ・シフト」(ロンドンビジネススクールのリンダ・グラッドン教授の著書)では「人生100年時代」が提唱され、話題となりました。そんな今、あらためて長寿と歯の関係について議論される機会も増えてきました。
今回は、あまり知られていない「歯と寿命の意外な関係」について紹介していきたいと思います。
高齢者の歯の本数
年齢とともに残っている歯の本数は当然減っていきます。平成27年に実施された国民健康・栄養調査では「なんでもよく噛んで食べられる人の割合」として以下のデータが発表されました。
40代:93%
50代:85%
60代:75%
70代以上:63%
※参照:厚生労働省 平成28年歯科疾患実態調査結果の概要1人平均現在歯数
栄養の偏り
歯の減少は、食生活の変化ひいては栄養の偏りを生みます。
硬いものを避け、軟らかいもの中心の食事になると、肉や根菜類などの摂取が減り、逆にお菓子類をたくさん食べるようになるという調査結果があります。
栄養素としては、タンパク質やビタミンが減り、糖質が増えるという傾向に繋がりやすいのです。
結果、筋肉や体力・免疫力の低下に加え、糖尿病リスクの増大につながっていきます。
認知症との関係
最新の研究では、歯の減少が「脳」にも影響すると考えられるようになってきました。
「噛む」という行為が脳内ヒスタミンの生成と関係しており、「噛む」ことで脳が活性するからです。よく噛むことは脳の血流量を増やします。
ノースカロライナ大学の調査では、「歯の脱落や抜歯が増えるごとに認知機能がやや低下する」と報告されており、認知症とも深い関係があることが分かってきました。
歯周病と生活習慣病の意外な関係
さらに成人の約8割がかかっているといわれている「歯周病」は、歯に留まらず、血液を通じて全身に悪影響を及ぼしています。
歯周病は糖尿病や急性心筋梗塞、脂質異常など、いわゆる生活習慣病と深い関係があることが分かっています。歯周病は感染症(細菌が悪さをして起きる病気)で、病巣を介して細菌が生み出した毒素が全身に撒き散らされるため、これらの疾患をより悪くさせてしまうのです。
例えば糖尿病。血糖値が高いという状態は血管を傷めます。外から見える形としては、細い血管が集中する部位のダメージが大きくなります。細い血管が集まる場所として知られるのは歯周組織、眼の網膜組織、腎臓が有名です。
糖尿病をコントロールできていなければ、歯周病が悪化し、目が悪くなり(糖尿病性網膜症 網膜の細い血管が詰まって網膜が酸欠になり、新生血管が増えるがこれらは容易に出血するので組織増殖を誘発し、網膜剥離を起こすことがある。日本人の失明原因の上位にある)、腎不全になることも。
こと歯周病と糖尿病に関してはどちらが誘発因なのかわからないくらい。かつては歯周病は糖尿病の合併症と言われていたのも納得できます。
ちょっと脱線しましたが、いずれにせよ起きて欲しくないことばかりです。
このように、歯の減少は食事だけでなく、「栄養」「脳」「生活習慣病」といった様々な寿命に直結する要素に関係しているのです。
8020(ハチマルニイマル)運動の現在地
「平成」も残すところあとわずかになりましたが、平成が始まった1989年、当時の厚生労働省は来るべき超高齢化社会に向けて「8020(ハチマルニイマル)運動」というスローガンを掲げました。
80歳になっても20本以上の自分の歯を保とう、という運動です。
実際80歳で20本の歯を保っている人はどれくらいいるのでしょうか?
厚生労働省の調査によると、平成5年には10%程度だった割合が、平成28年には45%程度まで上昇していることが分かります。
参照:厚生労働省 平成28年歯科疾患実態調査結果の概要 20本以上の歯を有する者の割合の年次推移
一方で世界的には、スウェーデンなどの北欧や米国に比べ、まだ低水準であることも指摘されています。
平成の次の時代においても、スタッフ一丸となって、“いつまでも健康で美しい歯の維持”に使命感をもって臨んでいきたいと思っています。
皆さまのご来院心よりお待ちしております。