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治療開始が早ければ早いほどよいとは言えない異常もあります。
典型的なものが、過蓋咬合(深すぎる噛み合わせ)です。以前は早期から介入することが勧められていたのですが、近年の研究により、混合歯列期の終わり頃の方が治療結果がよいことがわかってきました。乳歯の生え変わりの終わりの頃、小学校高学年ぐらいです。その報告を数年前の岩手の日本矯正歯科学会学術総会で聞いたときは、今治療中の混合歯列期初期の患者さんの顔がいくつも脳裏に浮かび、方針転換しないとなあ、時間を無駄にさせてしまったかなあ、でも岩手まで来てよかった!とさまざまな思いがめぐったを思い出します。
叢生(でこぼこの歯列)も、早期から介入しても結局抜歯を避けられないときがあります。拡大床で治せるという意見もありますが、あまりに過度の拡大は側方の歯列がうまく噛まない事態を招きますし、犬歯の幅を広げても安定しない、という論文もたくさんあります。とすれば無理に拡大するよりも抜歯をする方が安定が得られるということになりますね。
日本人の叢生は他の国の人よりもシビアであることは知られているのですが、じゃあいつからこんなに、というと時代は遥か昔、弥生時代まで遡るそうです。
博物館で人骨をご覧いただくとわかりますが、縄文時代ぐらいまでは歯のすり減りがとても多く、結果として歯の横幅が減ってしまい、歯がでこぼこすることはなかったようです。
もともと、人間の歯は、前に向かって少し傾斜がついていて、すり減っていく分量を補償するように前に繰り出されていく設計になっています。すり減っても後ろから奥歯が繰り出されてきて、埋め合わせをする。結果として親知らず(第三大臼歯)も並び、しかもすり減っている、というのが本来の人間の設計でした。しかし加熱されて柔らかくて美味しくて消化がよいものを食べられるようになった、というところで事態が一変します。歯がすり減らない。でも設計は前に傾斜がついている。加えて想定以上に長生きをして歯周病で土台の骨が下がって骨に埋まる部分よりも出ている部分が長くなる。矛盾は前に集中して前歯がでこぼこ。若いときには歯並びが綺麗だった高齢者ででこぼこの歯列が出来上がる仕組みです。加えて顎の骨が小さくなった?歯が大きくなった?と考えられるデータもあります(反証もあるのですが)。
経過はどうあれ、なぜか今時のお子さんは、乳歯列の段階で隙間がないどころかでこぼこまであるなあ、と日々感じています。あとから大きな永久歯に代わるのに乳歯がでこぼこでは到底並びきれるものではありません。
でこぼこの歯列は磨きにくく、力のバランスも悪くて、後年歯周病にかかるリスクもあげてしまう困った歯並びです。「健康な歯を抜きたくない」とでこぼこを放置した結果、歯のトラブルに悩み続け、虫歯や歯周病で歯を損ね、根本解決するなら矯正だけど、年齢を重ねて動きも悪いし社会的な状況も難しく、アンバランスな中で治療を重ねられている方を多く見て残念に思っています。縄文時代のすり減りを再現!といったら言い過ぎかもしれませんが、トータルで考えてどちらの方が得るところが大きいのか考えていただければと思います。